量的緩和政策によって、FRBの保有証券は4.5兆ドル程度に膨らみました。その多くが国債とエージェンシー債です。FRBは、テーパリングによって国債の買い入れをやめている一方、償還がきた債券に対しては再投資を行っていました。ただ、2018年に償還期限がくる保有証券が急増します。利回りが高い時に買っていたものが多いので、2018年に急増する償還で買い換えると、FRBのバランスシートが小さくなってしまい、FRBの収益が減ってしまうという問題を抱えています。さらに、仮にトランプ大統領の政策によって今後金利が上がれば、債券の価格が下がってFRBは損失を抱えていく問題もあります。保有資産の拡大について、実質的なゼロ金利環境においては金融政策として重要な役割を果たしてきましたが、FRBが政策金利の引上げ(利上げ)にかじを切ったことから、保有証券の再投資を終えやすくなっており、今のうちに保有資産を縮小させておくことで、将来の債券購入による景気刺激策が必要になった際に再び拡大に転じる余地を広げれます。
また、イエレンFRB議長の任期は2018年2月3日までです。今後、再投資をやめてFRBが保有資産を縮小する政策を行うとすれば、市場に大きな影響があるため、時間をかけて行う必要があります。そのため任期中に行うのであれば早く始める必要があると指摘されています。
さらに、トランプ大統領は財政発動をかけてくると思われるので景気が過熱してしまいかねず、それに対して利上げで対応する方法もありますが、利上げは市場に織り込ませるのに数カ月の下準備が必要な状態となっています。そのため、機動的に政策を打たなければならないので、保有資産縮小の政策はそれに適合しやすい政策と考えられています。この政策を始めれば、量についてはFOMC(連邦公開市場委員会)で決めれますし、一度縮小を始めれば、その量をFOMCごとに調節すればいいので、できない政策ではないとされています。ちなみに、再投資をやめるとなると、保有残高が減りますので、金利上昇要因となります。米国の金利が上がって日本の金利と差が拡がればドル高円安要因ですが、これまでFRBの保有資産の拡大と米国株上昇は相関しており、保有資産の縮小となれば、株にとってはマイナス要因とも考えられます。ゆえに、ドル高株安が考えられますし、金利上昇によって利上げもやりにくくなることから、ドル安円高も考えられます。また、以前、FRBが量的緩和政策を縮小する(テーパリング)と発言した(当時バーナンキFRB議長)だけで、ドル円は103円から93円までドル安円高が進みましたので、警戒しておく必要がありそうです。
FRBの保有資産縮小にあたって重要となるのは、国債より住宅ローン担保証券(MBS)と指摘されています。FRBの保有証券は4.5兆ドル程度あり、これを10年程度かけて2兆ドルを超える水準まで減らそうとしています。FRBは通貨発行残高の見合いとして国債を持っていますので、そもそもは国債を多く持っておく立場にあります。ゆえに、保有資産縮小のために減らされるのは住宅ローン担保証券と指摘されており、2014年にFRBが公表した正常化の方針では、住宅ローン担保証券は再投資をやめて、自然な形で保有残高を減らしていきたいとしています。ただ、長期的には住宅ローン担保証券は、限定的に売却することもあるとしています。住宅ローン担保証券は、残存期間が10年以上と長く、売却しなければ保有資産を縮小できないためです。ただ、売却となると、金利が上がって住宅市場を冷え込ませる恐れがあるので注意が必要です。
また、懸念事項としては、FRBはこれだけ保有資産があるので、縮小で売却損が出てしまうことです。さらに当座預金(銀行・証券会社などの金融機関が中央銀行に預けている預金)に対しても付利をしなければなりません。この両面のコストを、今後どのように評価していくのかが問題となりそうです。
そして、金融市場はこういった「グレートアンワインド」によってどのような結果をもたらすかの懸念しています。
FRBのバランスシート(総資産)の推移は、姉妹サイト「株式マーケットデータ」で確認することができます。
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