為替操作国に認定されると、米国と二国間協議が行われて通貨の切り上げが求められ、必要に応じて関税の引き上げ等の制裁が科せられます。過去、1980-1990年代に中国、台湾、韓国が認定されています。また、2019年8月に中国を認定しました。
為替操作国の認定は監視リストの基準に基いて3つの基準で審査し、以下3項目全てに該当する貿易相手国に対して是正を促し、1年たっても是正されなければ制裁の対象として、貿易相手国の企業を米政府との取引から締め出したり、通商協定の締結や交渉参加にあたり米通商代表部に考慮を求めるなどの是正措置を発動できるものとなっています。
2019年8月、トランプ政権のもと、米国(財務省)は中国を為替操作国に認定しましたが、中国は上記の基準に当てはまっていませんでした。上記の基準は、オバマ政権下で成立した「2015年法(貿易円滑化・貿易執行法)」に基づくもので、2019年8月の場合は「1988年法(包括通商競争力法)」が適用されました。1988年法には、為替操作国に対する具体的な基準はないため、2015年法に抵触しない中国を財務省がトランプ大統領の意向を汲んで適用したと見られています。
ただし、1988年法も2015年法も、為替操作国に認定した国に対して米国が監視を強めたり、交渉するなどの規定がなされているだけで、具体的な制裁に直結するものとはなっていません。
その後、2020年1月13日に米財務省は中国の為替操作国の指定を解除すると発表しました。米中貿易協議の第1段階の合意で、中国が競争上の目的で通貨を切り下げないと約束したことや、人民元安に歯止めがかかったことで解除に踏み切りました。
為替報告書は、自国の輸出競争力を上げる目的で不正に通貨安誘導を行った国・地域を「為替操作国」として制裁を発動する仕組みですが、オバマ大統領によって、新たに「監視リスト」が設けられ、すぐ制裁するほどではないにしても、貿易相手国の為替政策をけん制できるようになりました。監視リストは、オバマ大統領がTPP(環太平洋経済連携協定)の批准に向け米議会を懐柔す目的で設けられたとされています。当時、オバマ政権(民主党)はTPPの批准にメドが立っておらず、大統領選を前に国民は、貿易相手国が通貨安誘導で自国の製品を有利に売り込んでいると、自由貿易協定に対して批判が高まっていた一方、民主党に対抗する共和党は、伝統的に自由貿易を推進してきましたので、両党の思惑の妥協点として監視リストを設けて為替操作国への強硬姿勢を国民に示してTPPの早期批准のメドを立てたい狙いがあったとされています。
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